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東京高等裁判所 平成元年(う)430号 決定 1989年7月06日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人大倉忠夫、同笹隈みさ子、同青木孝が連名で提出した控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、外国人登録法の指紋押捺規定及びその違反に対する処罰規定は、日本国憲法一三条、一四条、三一条並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約七条、二六条等に違反し無効というべきであるから、本件大赦は、もともと犯罪に当たらない行為を対象とするもので、なんら効力を生ずるものでない。更に、本件大赦令は、訴訟の場で外国人登録法の指紋押捺規定の違憲性が明らかになるのを「口封じ」しようとするもので、内閣の恩赦権の濫用であり、行政権による司法権の侵害であり、被告人から裁判を受ける権利を奪うものであって、憲法七六条一項、三項、八一条、三二条に違反し無効である。加えて、本件大赦令は、天皇の死による恩赦を在日朝鮮人である被告人に押し付ける点で、憲法一九条が保障する思想良心の自由に対する侵害でもある。このように、本件大赦令ないしこれに基づく大赦は、違憲、違法で無効であり、本件は「大赦があったとき」に当たらないのに、原判決が、刑訴法三三七条三号を適用して被告人に免訴を言渡したのは、法令の適用を誤ったというほかなく、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。

そこで、所論に鑑み検討すると、およそ免訴の裁判は被告人に対する公訴権が爾後の事情で消滅したとして被告人を刑事裁判手続から解放するものであり、これによって被告人はもはや処罰されることがなくなるのであるから、右裁判に対し、被告人の側から、免訴の裁判自体の誤りを主張し、あるいは、無罪又は公訴棄却の裁判を求めて、上訴の申し立てをするのは、その利益を欠き、不適法というべきである(最高裁昭和二三年五月二六日大法廷判決・刑集二巻六号五二九頁、同昭和二九年一一月一〇日大法廷判決・刑集八巻一一号一八一六頁、同昭和三〇年一二月一四日大法廷判決・刑集九巻一三号二七七五頁、同昭和四六年二月二五日第一小法廷決定・裁判集一七九号一一九頁各参照)。

よって、本件控訴は、上訴権がないのにされたものであることが明らかであるから、刑訴法三八五条一項に従い、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 時國康夫 裁判官 小田健司 裁判官 神作良二)

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